S k y  V

 



学校は今日までで、2学期の過程が終了する。そして、いよいよ明日はクリスマス。
学校も友達も街も、全てがクリスマスカラーで染まっている。

 

去年までは慶吾と、慶吾の部屋で恋人のいない男同士で祝っていたのに、今年からは違う。
言葉には出していないけれど、慶吾が恋人と過ごすのはわかりきってる。でも、僕もバイトがあるから寂しい想いはしなくてすむかな。

 

 

「圭、あのさ・・・。」

 

今日はイブで、クリスマスは明日。
週末が近づいている今日の昼休みは、いつもより騒がしい。みんなが目前に控えているクリスマスというイベントに盛り上がっていのがわかる。
 
「なに?」
慶吾の恋人は、風邪で休み。
久しぶりに慶吾と昼ごはんを食べている時、言いにくそうに慶吾は口を開いた。
「圭は、クリスマス、どうするんだ?」
「ああ。今年は予定が入っているから、暇じゃないんだ。慶吾は裕と一緒に過ごすんでしょ?いいなぁ、僕も暇だったらもう少し楽しめたのに。」
言いづらそうなのは分かっているから、僕から話を切り上げようとする。
慶吾が、ほっとしたように肩の力を抜いたのがわかる。

 

 

そんなに気にしなくてもいいのに・・・。
僕はひとりでも、もう大丈夫なんだよ。慶吾。

 

 

「予定って?」
聞き流して欲しかったのに、目敏くその言葉を拾ってくる。

 

実のところ、僕がバイトをし始めた事を、慶吾にはまだ話していない。
知られるのが嫌だっていう訳ではないけれど、例えば、慶吾が、自分達に気を使って始めたのか?とか、そういう風に思われたら困るから。

 

バイトを始めたのは、確かに慶吾たちと居づらくなったから。僕の気持ちを忘れるため、考えないために、とにかく何かに没頭していたかったから。
でも、それだけじゃない。
僕には、少しでも多くのお金が必要なんだ・・・。

 

「ちょっとね、家の用事があって・・・。」
「なんだ、そうなのか。それじゃあ、仕方ないな。」
「うん。だから、僕のことは気にしないで、裕と楽しみなよ。恋人になって始めてのイベントだろ。」
「ああ、悪いな圭。」
バツが悪そうに言う慶吾をちらっと見てから立ち上がり、すぐ側にある窓を開けた。
 
温かい室内に、冷たい風が勢いよく入ってくる。
今日は、どんよりした曇りだ。
気温もいつもよりずっと低いから、夜には雪でも降るかもしれない。
 
そんなんだから、当然の事、いきなり窓を全開にした僕は、クラスにいる奴らから非難された。

 

「あ、おい、圭っ。なに窓なんか開けてんだよ。ほら、早く閉めろっ!」
そう言われて、仕方なく窓を閉める。
「ったく、俺達を殺す気かっ。」
「あはは・・。ごめんごめん。ちょっと空気が重いかなぁ・・って思って・・・・。」
乾いた笑いを漏らしながらも、誤魔化すように満面の笑顔で言い訳する。
「まあ、圭だから許してやるよ。」
しょうがねえなぁ、とか言いながら、なぜか、クラスメイトたちは顔を赤くして、それぞれの席に戻っていった。

 

みんな顔が赤い・・・。
なんで?
暖房が効きすぎてるのかな・・・・??
 
「ほら、圭も。いつまでも立ってないで座れよ。」
「あ、うん。」
不思議に思いつつも席に座り、食べ掛けのパンに手を伸ばす。
 
まあ、これで、慶吾との微妙な雰囲気も消せたはず・・・。

 

・・・でも。
いつまで、こんな事をしていなくちゃいけないんだろう。
慶吾は、僕の気持ちを知らないはずなのに、どうして僕を気にかけるの・・・?
トモダチなんだから、もっと自然に接してくれればいいのに。

 

なんて。
そんなこと、僕がいっていいことじゃない。
 
慶吾を気にしていたのは、僕。
慶吾から離れたのも、僕。
全部、僕。
僕、僕、僕、僕、ぼく、ぼく・・・・。

 

全て僕のせいだから、自業自得だ。
その結果がコレなんて・・・、
 
ナンテ、ツイテナインダロウ。
・・・・・。

 

 

 

 

 

 

『慶吾と元の親友に戻るには、どうしたらいいのだろう。』
 
最近の僕の悩みは、これだ。

 

バイト先の喫茶店には、新しいアルバイトが入ったせいで、週3回になった。だから僕は、時間のある時には丘に来て、これを考える。
それに、最近は紺野さんとよく此処で会う。大きな仕事が一段落ついて、時間が出来たらしい。

 

それが僕には、少し嬉しい。

 

なぜだかは解らない。
悩みを打ち明けるわけでもなく、何かを相談するわけでもなく、ただ、空を見ながら2人で他愛もない話をするだけ・・・。
たったそれだけの事が僕には嬉しくて、丘に来る楽しみの一つにもなっているんだ。

 

“明日も来る。”その言葉に、何か魔法でも掛かっているんじゃないかと思う。だって、僕はそれを聞いただけで、すごく嬉しくてしょうがないんだから。

 

 

はやく、来ないかな・・・。

 

 

なんとなく、迷惑をかけていると感じてる。
きっと紺野さんは、僕の事を心配してくれているのだろうから・・・。
でも、僕にすら理解できず、処理できないこの気持ちを押さえる事なんて、できないんだ。

 

 

全ては、紺野さんのおかげ。

 

慶吾に対して、今はすごく落ち着いていられる。
裕との関係も今ではすんなり頭に入ってきて、だからこそ、この前2人が喧嘩した時は、本気で心配したし、力にもなれたんだ。
 
いつの間にか、そんなふうに接する事が出来ていた。
それは、紺野さんがいたからだと思う。
 
学校が終わって急いで来ても、冬はとくに日の入りが早いから、あまり空を見る事が出来ない。
けれど、最近は空を見るより、考えているほうが多くなった気がする。

 

じっと空を見る。
どんよりした雲は、一向に晴れなくて、それでも、所々に夕日の弱い日差しが漏れている。
それに、今日も紺野さんが来てくれるから・・・。
だから、僕は肩の力を抜くことが出来るし、心を穏やかにする事も出来るんだ。

 

 

はやく、来ないかな・・・。

 

 

 

もう、恋なんかしないと思った。

 

他に好きな人なんて、出来ないと思ってた。

 

あれほど落ち込んで、性格も多少変わって、

 

暗闇を彷徨っていたはずなのに、

 

気付けば僕は・・・

 

 

僕は、日向の温かいところを歩いてたんだ。

 

 

 

「圭。」
寒さから逃れるために、膝を抱えていた僕の耳に、紺野さんの優しい声が聞こえた。
ばっと顔を向けると、紺野さんともう1人、すごく綺麗なお兄さんがいた。
 
誰だろう・・・。スーツを着ているし、紺野さんの知り合いかな。
 
「こんにちは、紺野さん。」
「ああ。圭、こいつは春日っていって、俺の後輩だ。春日、この子が圭だよ。」
春日と呼ばれた綺麗な人は、僕を見ると、誰もが目を奪われてしまうような微笑を浮かべた。
 
「こんにちは、圭くん。・・・うん、想像よりずっときれいな子だね、先輩。」
「想像?」
春日さんが言った言葉の意味がわからなくて、僕は思わず聞いてしまう。
「そう。先輩からね、今まで、圭くんの事を色々聞いていたんだ。ずっと、きれいとか、可愛いとかって聞いてたから、つい僕もどんな子か想像しちゃってさ。でも、本物をみたら僕の想像よりもはるかにいいんだもん、驚いたよ。」
人慣れした笑顔で言う春日さんの言葉に、僕は驚いた。
僕が、きれい?可愛い?
可愛いというなら、裕みたいな子だし。きれいだというなら、目の前にいる春日さんの方が、よっぽど当てはまっている。

 

「春日っ、余計な事を言うな。」
・・・・・焦っている紺野さんを初めて見た。
いつもこの丘に来る紺野さんは、すごく落ち着いていて、優しい目をしているから。

 

「はいはい、わかってますよ先輩。僕は邪魔にならないうちに、さっさと帰りますね。」
「お前は、すでに邪魔だ。」
紺野さんは、小声で何かを言っている。
「もう、帰るんですか。」
紺野さんが、何を話しているかはわからないけど、春日さんがここに来てから、まだほんの5分・・・。一体何のために来たんだろう。
「何のために来たって?そりゃ、もちろん圭くんを見るためだよ。先輩に無理言って着いて来たんだ。」
「えっ。」

 

なんで、わかったの・・・。

 

「圭くんは本当に可愛いね。なぜ僕が圭くんの考えている事がわかるか、教えてあげようか?」
言いながら僕の目の前にしゃがみ込んだ春日さんは、何かを企んでいるような笑みを浮かべてる。

 

こくん。

 

不思議でしょうがない。
だって僕は、表情を作ることが今では日常になっているから、誰かに自分の思っている事や、考えている事なんて、バレることはないと思っていた。
でなければ、僕は今頃、慶吾をもっと困らせていて、昼なんて一緒に居られる訳がないんだ。

 

「やっぱり、圭くんは素直だね。」
うなずく僕に、春日さんは満面の笑みだ。
何がそんなに楽しいのだろう・・・。
「圭くんはね、思っていることが瞳に出るんだよ。それは、たぶん普通の人には絶対に分からないくらい微かだけど、僕も営業なんて仕事をしているから、自然と分かっちゃうんだよね。」

 

よかった。

 

正直ほっとした。けれど、尚更僕は思っていることを隠さなくちゃいけない。
春日さんにバレるってことは、つまり、紺野さんにもバレてるって事・・・。

 

ふと、近くに立っている紺野さんを見上げる。
「気にするな、圭。」
僕の視線に気付いて、紺野さんは顔を向ける。
いつもの優しい笑みに、今はちょっとだけ苦笑が混ざっていて、やっぱり僕は、初めて見る紺野さんの表情に戸惑う。

 

 

春日さんと一緒の時、紺野さんはいつもこんなに色々な顔を見せているのかな・・・。

 

そう思った時、僕は無性に悲しくなった。
そして、春日さんと話している紺野さんを見て、ズキっと痛みがはしった。

 

いたい、な・・・・。
 
 
なんだろう。
自分の気持ちがわからない。

 

どうしてこんなに胸が痛いんだろう・・・。

 

はたから見ても、とても仲が良さそうな2人。
僕はその間に、どうしても入れない。
 
ズキズキと痛みは消えなくて、むしろ、2人を見ているだけでそれはどんどん増していく。

 

痛い。
イタイ。

 

 

 

              ココニ、コノ場所ニイタクナイ。

 

そう、初めて思った。

 

 

 

ここは、いつでも僕を受け入れてくれる場所で、いつもここで空を眺めていた。

 

 

               ――――――――― そ ら 。

 

 

そうだ。
僕はいつもここで空を見ていたんだ。
それが、最近では考え事をすることが多くなって・・・・・、
ちゃんと見ていなかった。

 

そんな事、気付きもしなかった。
だって、いつだって僕のトナリには紺野さんがいて、いつも優しく受け入れてくれてたから。

 

でも今は・・・。
紺野さんの隣には春日さんがいる。
僕じゃなくて、
春日さんが・・・・。

 

 

 

此処二イタクナイ・・・。

 

今日ハ空ガ曇ッテイルカラ。

 

スデニ寒サハ感ジナイケド、

 

今、

 

ココハ僕ノ居場所ジャナイ気ガスルカラ・・・。

 

 

 

無意識に、僕の両目からは訳のわからない涙が流れる。

 

「紺野さん、僕もう帰るね。」
そう言うと同時に立って、この涙に気付かれないように、紺野さんが何かいう前に僕は走った。
1秒でも2人の姿を見ていたくなくて・・・。
それでも消えない痛みは、僕をどんどん追い込んでいく。

 

 

 

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