緩く合わせられた襦袢の隙間から侵入し、その下に秘められていた白くなだらかな下腹に、武骨な男の手が滑る。
さらさらと、その肉厚な手には似遣わない繊細且つ巧みな動きで、腹を撫で摩るその動きは優しくもあり、何処か淫猥でもあった。
男の手に、そ……と添えられたは、腹と同じ白さを持った女の手。
小さな桜貝の爪を指先につけた、だが武を嗜んでいる者特有の、芯のある強さを孕んだその手がそっと、男の手を掴んだ。

「……………左近」

闇に響いたのは小さな呼び掛け。
まどろみながらも、凛とした声音が闇を切り裂く。

「おや殿、お気付きでしたか」

闇から返ってきた声は何処か揶揄を含んだような、甘さと意地悪さを混ぜ合わせたもの。
だが、低く艶があるそれに、女は全く心動かす様子もなく、小さな溜め息が闇に溶けた。

「今日は閨を共に出来ぬと言っただろう。不埒な動きをするな」
「おや、心外ですな。左近はただ、月の障りが酷い殿の子の宮が
 少しでも易くなるようにと、その辺りを温めていただけですのに……それとも何か感じてしまいましたか?」
「阿呆」

腹の更に下の、淡い茂みを擽ろうした男の手に、軽く爪を立てる。
背から抱き締められている体制から、もぞもぞと向きを反転させれば、がっしりとした逞しい胸板が目に入る。
上目遣いで見れば、闇の中でも己を見ていたらしい、揺るぎない瞳とかち合った。

「あまり悪戯をするなら、金輪際、月の障りには褥を共にせぬぞ」

言いながらも睨んでいるであろう彼の人の腰を、ゆうるりと摩ってやれば、
その感覚が心地好いのか、腕の中の視線が常よりも和らいだのが闇からでもわかる。

「つれないですな。左近は殿、貴女をこんなにも求めて止まないですのに……」
「お前の求めに応じるがままなら、俺の死因は腹上死だな」
「お嫌ですか?」
「………………………………好いた者を感じながら死ねるというのは魅力的ではあるが、な。
 だが生憎、まだそこまで色惚けてはおらん」

ほんのりと頬に朱を佩いて呟く様は生娘よりも尚可憐で、
だが言葉そのものは手練手管を知りうる遊び女のように恋情を加速させるもので。
この年若い主にどこまで堕ちれば、この心の恋情は動きを止めるのだろうか?
―――左近はそう心に問いながら、三成の腰を引き寄せ、きつく抱き締める。
その際に己が太股が、三成の足と足の付け根に入り混んだのがわかった。
常ならば何もない所だが、月の汚れの為、その流れ出る血を止めるためのものが左近の太股を擽る。

「ぁっ……さ、左近、足を抜け。漏れて血がつく」
「殿の血なら極上の甘露でしょうなあ」

そう言って、軽く太股を擦り付けてみれば、三成の体が強張り、小さな鳴き声が胸元に落ちる。
日頃、左近に愛でられている肉体は、交わる事が出来ぬ時ですら、些細な刺激も見逃せないほどに敏感になっているのだ。

「さ、…こん!!本当にやめんか…っ!!」

じわり、と奥から沸くその量が増えたのに気付いた三成は、乱暴ではあるが厚い胸板を覆う胸毛を数本、抜き取る。
予想外の痛さに止まった左近の太股を付け根から離し、太股に触れば指先に纏ったのは粘着的な血。

「ほら、見ろ。漏れたではないか」

その指を左近に見せれば、捕まれて、その汚れを清めるように這ったは左近の舌。
己の汚れを舐めとられるという悪趣味極まりない事をされ、
三成は顔を真っ赤にして離れようともがくが、捕まれた手は強固で、全てが拭われるまで離される事はなかった。

「…………柘榴の蜜、と言った所ですかな」
「この変態が……っ!!!!」

ようやっと離された手で横っ面をひっぱたいてやろうとしたら、
直前にやんわりと止められて、ますます行き場のない怒りに似た羞恥心が体を焦がす。
だが鈍く重い痛みが体の内部を擽り、その感情すら霧散させてしまう。

「い、つ………!!」

どろりと流れるは、意味をなさぬ子の宮の祝福。
命を吹き込まれた卵を慈しむ為の血潮が、役目も知らず果たせずに体の外へと流れゆく。
痛みの意味は、その嘆きか嘲りか。
熟れ過ぎた果実が傷むよう、産まれえない子を悼んで子の宮が痛み、三成を、子を為さぬ女を責める。
緩やかに腰や腹を撫でる愛しい男の手は、鎮痛剤のように心の淀を消すが、役目を果たさず死に絶えた男の精の嘆きが滅する事はない。

「………すまぬ」
「気になさらず。これくらいで、殿が少しでも心易くなるのでしたら」
「違う……違うのだ、左近」

三成は左近の言葉を遮り、また言葉を紡ぐ。

「子を……」

子の宮から響く痛みが三成を蝕み、縋る様に回した背を掻き抱く。

「お前の子を、成す事が出来ず………すまない」

どろり、とまた体の内から嘆きのような血潮が溢れて、抑えが飲みきれなかった分が白い太股を伝い、方々に滲む。
左近はその感触がわかっても嫌な顔ひとつせずに、ただ細い体を優しく抱いた。

「……………叶うならば」




そのように殿を苛む子の宮なんぞ、この鬼が喰らうてしまいたい

そうすれば、きっと熟れた柘榴の様に甘く赤く、この喉を潤すだろう




そう獰猛で狂暴、残忍な感情が沸々と心に浮かび上がる。
左近は三成を愛している。
その高潔な志も、人付き合いを苦手とする幼い気性も、
偽った性でありながらも男の数里先を行く才覚も、細く脆い女の肢体も、全てをひっくるめて愛している。
だから左近は好かないのだ。
嘘を嫌う彼女にこのような生き方を強いる乱世も、それを嘲る愚かな他の武将も、
女であれと言うように酷く彼女を痛めつける月の訪れも。
子が要らぬ、とは言えない。左近だって男だ。愛しい女との子を欲しがらぬ道理はない。
だが、三成がそれを気にして苦しむのなら、子なんぞいらぬのだ。
まだ見ぬ、存在すらしておらぬ子より、三成の笑顔の方が左近にとっては重要だ。
交わりで種を中で出す事は禁じられているが、情事の後、体に散らされた白いそれを掬い、
体に擦り付ける三成の瞳は泣きそうなもので、それを見る度、左近はこの世の全てから三成を拐ってしまいたい衝動に駆られる。

いっそ、この細い体の爪先から頭の天辺まで、爪の欠片も髪の一筋も残さずに、
この鬼と呼ばれ、畏怖される我が身の内に納めてしまえたら。
誰にも傷付けぬ事が出来ない身の内に隠してしまえたら。

そう思いを巡らす事は初めてではない。
体を重ねる前から、それこそ遠い昔、山崎で出会った時から、意識せずともに身の内に芽生えた狂気染みた考え。
愛情と欲望と、美しい玉を他者に見せたくない、壊されたくないというような
子供めいた蒐集癖が綯い交ぜになった三成への思慕。
鬼と呼ばれる己が身ではあるが、果たして穏やかな仮面の下の狂暴な恋情は鬼だからか人だからか。
三成を喰らいたいと願うのは人ゆえか鬼ゆえか。
子を成せずにすまない、と声なく涙なく嘆く愛しい人の体を、
優しく抱いて宥め、甘い声音で慰めながらも、三成には見えないその瞳は冷ややかでありながらも熱く猛け狂っている。



鼻先を霞めた、濡れた柘榴の芳しい臭いは、左近の鼻孔を甘く満たした。






後書き
どう見ても悪趣味極まりないのは書き手です。本当に(以下略)
気分的には『褥に舞う姫、代償は』の左近バージョン。
首を欲しがる三成の対は子宮を食らいたい左近という……え、何このバイオレンスだかグロテスクだかなカップル(をい)


でもナニよりもこの話のイロモノ部分は……その、経血を舐める事だと思うのですが、書き手的にはありな方です。
以下、それに対する見解というより弁明ですが、結構ぶっちゃけてる表現を使ってるので反転で。
(反転開始)BLでフェラで口内射精した後にディープキスとかかますのは普通と見てるので、そういう方向で考えると舐めさせてもいいかなぁと思うのです。
や、ぶっちゃけそれでもキツいって思いますけど、ほら、所詮二次元ファンタジーー!!!!という言葉で全てをかき消したいと思います。
まぁ、書き手が小スカならありって考えしてるので………自分に被害が来なければ大抵の変態行為は好きです(何と言う自己中)
(反転終了)

柘榴のイメージは鬼子母神の話しとかもありますが、授業で聞いたCoccoの『濡れた揺篭』の影響もあります。
音楽からイメージにもならない原型とか得すぎですね、汚しすぎてすみません・・・ orz

07/10/01/up



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