佐和山のお狐様は何と鳴く? 「左近、先の戦の事なのだが……」 「治水の件か……左近、資料…ああ、それだ」 「おい、左近を見なかったか?」 「左近、貴様、どこにいるのだっ?!さこーんっ!!!」 佐和山城に一番繰り返される言葉と言ったら、 城主たる石田治部少輔三成の名 ……ではなく、その城主が常に呼ぶ、筆頭家老である島左近の名前だ。 ………とは誰が言ったが知らぬが、的を得ていると正澄は思う。 朝から晩まで、三成が左近と共にいる事は少なくない。 もちろん左近は三成の右腕、いや半身と言っても過言ではない存在となっているのは周知の事実で、 実に左近は得意の軍略だけでなく政務、はたまた当人ですら後回しにしがちの 三成の日常の些細な事すら細やかに気を配り、また時には有無を言わさない迫力で若い三成の事を補佐している。 いい事である、とは正澄も思うのだが、 「………島殿にばかりかまけているのもねぇ」 思わず酒盃の水面を乱すは、あえかな溜め息。それでも唇には穏やか笑みが浮かんでいる様が、何処となく薄ら寒い。 ここは近江佐和山城の正澄に与えられた一室。 開けられた障子の先から俯瞰して見えるは中庭で、 そこには三成の赤銅色の髪が、花もほとんどない故に緑系色しかない庭の中、キラキラ輝いている。 微かに部屋まで届くのは『左近』と、己が筆頭家老を呼ぶ声。 佐和山城ではよく見られる光景と一言で片付けられると言えるし、 また城主が自身で家臣を捜すという何か間違っている光景と言われれば、そうだとも言えよう。 有能さとその冴えた美貌から、大人びている、と言われる事が多い三成だが、こと左近が関わると周囲の評など何処へやら、だ。 あまりのなつきっぷりに、依存や馴れ合いになってしまうのではないか、などという心配は全く無い。 正澄は左近の事は詳しく知らぬが、三成の事を信頼している。 だからはっきり言おう。 ただの嫉妬である。 月も恥じ入るような美貌に―――正澄もほぼ同じ顔なのに気付いているのだが、当人が全く気にしていない、有能過ぎるほどの才、 だが真っ直ぐすぎて時には北政所にすら『生き難い』と言われるほど無器用で、だがそこが誰よりも輝かしく、正澄にとっては可愛い弟。 だからわかっているのである。 左近を特別嫌っているわけでも、ましてや三成が憎いわけでもない。 三成は正澄の弟で、正澄は左近よりもずっとずっと、三成と共に時を過ごしているのに、 左近と三成はまるで生まれる時に悲劇的に別れてしまって、今ようやっと一つに戻れた比翼の鳥のように思えるのだ。 「………まあ、最初から島殿と私は違うけどねぇ」 三成にとっては最初からいた正澄に、三成当人が激しく渇望した左近。 立ち位置も違えば、求められてるものも違う。 わかってはいるのだ、理性では。 だが正澄の胸の内は今だ黒い靄が渦巻いている。 「………妹、いや娘の嫁ぎ先が決まったら、こんな気分なのかねぇ」 笑みのままふわり、と酒盃に口をつけると、喉を灼くのは冷たい熱。 ちら、と窓の外を見下げれば、ようやっと見つかったらしく、筆頭家老と城主が揃っていた。 仲睦まじいその姿は微笑ましい反面、やっぱり正澄の心は晴れなくて………。 「……………………今夜、勘兵衛殿と舞と蒲生と飲もうそうしよう」 無表情でそう言い切ると、正澄は窓の縁に持っていた酒盃を置いて机に向かう。 ―――余談だが、表情をなくすと三成とよく似ていると他者にもわかる、正澄本来の冴えた美貌が露になる。 もっとも現在、その比較対照の三成自身が不仲の者達が見たら、 『狐狸の妖の変化に違いない!』と言いそうなほど、穏やかな雰囲気なため、並べて比べる事は出来ないのだが…。 文箱を開いて、サラサラと墨を擦る音が室内に響く。筆の滑る音が何処か刺々しいのは気のせいではない。 ―――――――縁に残された土焼の酒盃の罅割れから、青い空が覗いていた穏やかな佐和山の午後のお話。 |
後書き
正澄視点のサコミツ。さり気に兄ちゃん、ウザカップルにイライラしてます(笑)
城とか部屋とかぜんぜんわっかんないよ!!ていうか嘘八百すみません OTZ
あの時代、城に部屋とかちゃんと作られてたんかなー?(現存する城とか見てるとぶっちゃけ部屋って広くなくね?とか思う!)
うちの正澄兄さんはデレツンです。弟がツンデレなら兄貴はデレツンだろ!と。
猫かぶりがうまいけど中身結構お茶らけた人です。後、隠れジャイアニズム。
三成は俺の弟!俺の弟にちょっかい出すヤツにはちょっかい出すぜ!みたいな。
最後に出した<勘兵衛殿と舞と蒲生>は渡辺勘兵衛と舞兵庫と蒲生郷舎です。石田家臣団萌え!(黙れ)
兄貴とこの三人は呑み仲間設定。というか左近と三成が二人の世界作ってるので、左近は上手く正澄含む4名に馴染めてなかったり…(特に正澄と舞)
自分設定ばっかだな!!読む人の事考えてなくてすみません!!いつか家臣団ネタをHPに載せたいです。
……あ、最後の一行、皹入れたの正澄兄さんです。「んにゃろぉ……!」(ピキッ!)みたいなノリで…。ああ、文才が真剣に欲しい!!
08/01/05/up
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