山際を白く染める東雲が、肉眼で確認出来ぬか出来ようかというほど、微かな夜明の刻、
座っている己の傍らに横たわる細い肢体を見つめる。

宵闇にも仄かに光る白雪の肌に、闇よりも濃く艶やかに肌を渡る緑の黒髪。

真っ直ぐに、だけど微かに女の性とわかる柔らかさを秘める体躯は、己の武骨さと比べずとも華奢で。

いくらただでさえ暑い葉月に、汗をかくほど熱くまぐわったとしても、朝方の風は冷えようと、
脱げがらのように褥の側に散らばっている己が単をその体に被せたら、微かな光源に光るは氷蒼の瞳。


「…………しんげん?」


常と違って己の名を呼ぶ、女の玲瓏たる声は微かに枯れており、
数刻前のまぐわいが女―――謙信に何れだけ負担をかけたか改めて知らされる。


「すまぬ、起こしてしまったか?」
「…………わたくしは、ねてしまったのですね」



問いに応えずに、まだ半分夢心地なのかぼんやりとした眼差しで儂を見る。
焦点の合わない危うげなその蒼眼に見つめられ、年甲斐もなくまた盛りそうな己が欲望をたしなめる。



「まだ早いから、寝ていてもよいぞ?」
「ふふ………だいじょうぶですよ、わたくしはそんなにやわではありません」



くすり、と柔らかに弧を描く唇からして小造りでそうとは思えぬが、互いに互いを真、そして終の好敵手と認める間柄。
その細く小さい、己とは正反対のしなやかな体から、
繰り広げられる剣撃の鋭さや氷雪の冷気を放つ太刀筋はこの世の誰よりも知っている自負はある。
だがそうは言っても、こうやって戦場から離れて見れば、好敵手ではなく、
華奢な体に柔らかな肌を持った、愛しい女にしか己の眼には映らない。



「それよりもしんげん。あなたさまもねなくてよいのですか?ここからかいのくにへもどるには、なんしょをいくつかとおるでしょう?」



少しでも寝ていた方がいい、と健気に心配してくれる謙信の頭を撫でてやると、自然と口元が緩んだ。
こやつの髪は艶やかでありながらしっとりとしていて、指を滑らせるとなんともいい心地なのだ。



「大丈夫よ、あれ程でへばるほど老いてはおらぬわ」
「ふふ……でもそのわりには、いぜんよりしゅりょうがひかえめになっているようですが?」
「まだ死ぬ訳にはいかぬからな。お前もいい年………には見えぬが、それなりの年なのだから控えたらどうだ?」
「あなたさまのくにでは『いいとし』のかたでも、あのようにせいりょくおうせいなのですね、しらなかった」



撫でられる感触が心地よいのか、薄暗い闇にあえかな吐息を溢しながらも鈴の様にころころと笑む内容が際どい物で、思わず口がつぐむ。
そんな儂の様子が可笑しいのか、娘子の様にみずみずしいその手を伸ばし、儂の膝に乗せた。



「まだはらのなかがあつくて、おもい」
「……………誘っておるのか?」
「さあ?」



細まる冷蒼の瞳は内心を秘めるように、鮮やかに煌めく。
その手を掴み、俊敏に組みしだいても、その瞳に儂を映したまま謙信の笑みは崩れる事はない。
隙のない美貌に華奢な肢体は公家の姫君の持つ宮人形のよう。
唯一、人たらしめるように上下に動くは真っ白な胸元。
山と言うほどの膨らみもなく、女性らしいなだらかなな曲線すら触らないと気付けぬかも知れぬほど細やかなもので、
北国ならではの透明感がある雪の肌、そしてその頂点に淡く咲く桃色の蕾が夜明け前の薄藍の光に照らされた様は、まるで自身の内から発光するようだ。
性差を感じさせないほどに妖艶な肢体と、冷たさまで感じる程の美貌。
瞳にともる焔は全てを見透かすように穏やかに揺れている。

「…………主は、」

細く、小さな体を眺めて、ふと思い返したように告げた。

「菩薩に似ておるな……」

人形のように穏やかな美貌といい、細く平坦でありながら妖艶とも神々しいとも見ることが出来る肢体といい、
迷いなく真っ直ぐに褥に散らばる黒髪といい神仏の力の賜物のようだとつくづく思う。
そう呟けば、謙信はその瞳を丸くして、その後にくすくすと小さな声をあげて笑う。
玲瓏な笑い声は跳ねるように転がりながら、薄闇の中に溶けていく。
笑う度に波打つ白い喉元や腹、そして合わせて揺れる黒髪が憎らしいほど牡を刺激する。

「ぼさつなんて、わたくしにはにあいませんよ。それにおそれおおい」
「ほう?主にも畏れるものがあるとはな」
「わたくしはみちびくものです。うえすぎをいくさのかちどきへとみちびくもの。
 ぼさつはすくうものでしょう?」

小首を傾げた時に覗いた首筋に顔を寄せれば、擽ったいとも快いともとれる小さな吐息。

「しん……げん」
「やはり主は菩薩よ、謙信」
「ぇ…………?」

潤んだ瞳で不思議そうに見上げる目尻に口を寄せ、その涼しげな瞳を舐める。

「………っ、や…ぁ……」
「主は儂だけの菩薩よ、謙信」
「………くどきもんくにしてはずいぶん、まっこうくさいですね」

そうぼやきながらも奴は穏やかに笑み、するりと脚を絡める。
口を吸えば、誘うように開かれる唇。


―――黎明の光からも隠すように、その肢体をかき抱いた。





後書き
BASARA未所持&ほぼ未プレイ(友人宅で数回くらい)でやっちまったな!
カッと萌えて書いた、という作品です。や、作品の大半はそうですが(計画性という言葉と縁遠い)


BASARAの謙信様のイラストの体のラインは菩薩っぽいなーと思うんですがどうでしょう?
あの全身タイツでつるーんとして見えるから、剥いでも(剥ぐなよ)筋肉!開門!にはならない……と思う。
逆に信玄は仁王像のような見事な筋肉だといいと思う。対比!体格差!!(何)




07/11/17/up



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