「ほら、これが卒業式の写真」


ペラとページを捲ると、そこには数枚の写真。

そこには今より十数年前の父さまと母さまが鮮やかに瞬間を生きている。

いい天気の午後、ヒマを持て余していた私は倉庫を漁っていたら1冊の古びた本を見つけた。
それを母さまの所に持っていって、『なあに これ?』と聞いたら懐かしそうに笑って、私に『見る?』と聞いた。
首を立てに振ると、母さまは温かな縁側にお茶と古びた本を持って来てページを捲り始めた。


「うわぁ………」


温かな陽射しに照らされる、若い父さまと母さまの姿。
現在も変わらない夢見が丘高校の学ランとセーラー服を着ている父さまと母さまは、

写真の中で幸せそうに笑っている。


「今はもう、老けてしまったけどね。私もあの人も」


「若い父さまと母さま、初めて見た……」


「あら?貴方見た事なかったかしら??結婚式の写真」


「それよりも若いじゃない、この写真の2人は」


「そうね」


クスクスと笑う母さまは今でも十分若く見える。父さまもそうだ。

母さまはともかく、父さまは今でも学ランを着てもおかしくないだろう。

そういったら父さまは苦笑いをしたけど。

母さまに言わせれば『あの人はベビーフェイスなのよ、私はただの若作り』らしい。

私はそうは思わないんだけどな…………。


「あ、これ、岡田のおじさまじゃないの??」


「そう、よくわかったわね。こっちは弥生、氷室君に工藤君……あ、吉村君に陽子に智子!」


「うわぁ、皆若いねー」


懐かしそうに目を細める母さまは日溜まりの中、何所か遠い遠い………

もう決して戻らない何かを見つめていた気がした。


「か………母さまと父さまはどうしておつき合いしたの?」


「え………」


何かそんな母さまを見て、自分だけ何所か遠い所にいったような、夜たった1人で目が覚めたような寂しさを感じてしまい、
少し掠れた声で前々から知りたかった質問をした。その質問を聞いて母さまは、少しだけ頬を赤らめる。


「まぁ………嫌だわ。貴方、何でそんな事、知りたいのよ?」


「だって私、母さまは父さまの何処を好きになったのか知りたいの。

 娘の私がいうのも何だけどお人好しだし、おっとりっていうかとろいし、

 優柔不断だし、しかも華道の跡取り!顔は悪くはないけど………イイとこ中の上。

 どう考えても吉村のおじさまや工藤のおじさまの方がかっこいいよ!

 何処を考えても、花の高校生が進んでつき合いたいって思うような人じゃないよ??」


もっと言おうとしたけど、母さまが人さし指を口に持ってきて

『それ以上はいっちゃダメよ』と無言で私にいってきたので、私は口を閉じた。


「確かに、………まぁそうよね」


少し悩んで、母さまは私の意見を肯定した。肯定された嬉しさで私はさらに調子に乗る。


「でしょ!?じゃあ何で!?」


「そうねー……………うーん、優しさ、かな。

ほら、あの人といると何かホワーっていうか、ポワーンていうか………優しい気持ちになれるじゃない?
  安心、できるのよね。まったりおっとりしていて楽なのよ。

確かに貴方が言う通り吉村君や工藤君は外見が華やかだし、

岡田君もスポーツマンでかっこいいわ。氷室君は成績優秀でクールビューティー。

吉村君なんかお金持ちでフェミニスト。本当に王子様みたいだったわ。

でも………あの人は、優しくて、暖かくて……私を見てくれた。


 あのね、私は高校生活って夢みたいなモノだと思うの」


「夢?」


「そう、夢。暖かくて、甘くて、楽しい事だらけで…………

……でも確実に何時かは目が覚めてしまう夢物語。だからね、私は考えたの。

何時か目が覚めた時に、手を握ってくれる……

一緒に未来を見つめてくれる人は誰だろう?って………。

考えて、頭に浮かんだ人は……………………誰だと思う?」


「父さま?」


「そう。目が覚めても、一緒にいてくれて『おはよう』って言ってくれる人っていったら、
あの人しか浮かばなかったの」


母さまはとても艶やかな微笑みを私に向けた。
その微笑みはとてもとても幸せそうで、娘の私も少しゾクリとした。悪寒ではなくて美しさでゾクッてなったのだ。


「それに恋愛中ってカッコつけても、ムリな所ってあるじゃない。

私を見せられる信じられる人って私にはあの人しかいなかったのね。

だから、おつき合いしたのかな?本当の所、私もよくわからないわ。

でも、私はあの人を愛した。そしてあの人も私を愛してくれた。だからつき合ったのよ。

そして、結婚して……………貴方が生まれたのよ。」


「母さま………」


母さまの言葉にジーンと感動をしていると、遠くの方でガラガラッと戸が開く音がして…


「ただいまー」


なぁんでこう………イイところ♪で帰ってくるかな、父さまは。タイミング悪すぎだよぉ。


「さぁさ。誠さんも帰ってきた事ですし、今日はここまでにしておきましょ」


「ええ〜〜!?」


母さまは立ち上がりながらそう言う。私は思いっきり不満げな声を出す。
だって母さまの頬真っ赤なんですもの。まるでりんごのよう。逃げられたのは一目瞭然。


「つまんないのーーっ」


「ふふふ、今度は誠さんにも聞いてみたら?」


「真っ赤になって話し逸らされるのがオチだもん」


笑いながら母さまは玄関まで、小走りに行ってしまった。

縁側に残ったのは冷めたお茶と、思い出がつまったアルバム。

私はそっと捲ってみる。そこには母さまと父さまの幸せそうな笑顔。


「・・・!」


母さまの声がして、振り向いたら写真の中と同じ笑顔の、父さまと母さま。


「誠さんが帰ってきたからお茶にしましょう。誠さんが御団子を買ってきてくれたの」


母さまがすごくすごく優しく、暖かく──幸せそうに笑ったので、私も嬉しくなって……


「うんっ」


パタパタと母さま達の所へと駆け出した。



写真には昔の幸せと微笑みが、家には今の幸せと微笑みが満ちている─────





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