ヒノエくんはキスが好き。
 
 
何かあると、いや、なくてもすぐに私にキスをする。
髪や耳たぶ、うなじにほっぺ、それに唇―――とにかくいろんな所にキスをしてくる。
(そう言えば、初めて会った時も手の甲にキスしてきたっけ)
まるで息するように自然に、ヒノエくんはわたしにキスをする。
 
「ねぇ、望美」
「? 何?ヒノ…ぇ…んぅ…」
 
ほら、こんな風に私を呼んだかと思えば、目の前にヒノエくんの顔のどアップ。なんて事はよくある話…だったりする。
抵抗したくても、ヒノエくんの唇が私の抵抗心を吸い取ってしまった様に、いつもうまく抵抗できない。
キスされないように!って身構えても、される時はどう足掻いてもされてしまう。
(されない時なんて限りなく無いに近いけど)
だからきっと、ヒノエくんはキスが好きなんだと思う。
 
私もキスは…その……嫌いじゃない……けど
いつもヒノエくんのキスは突然で、その度に私はドキドキして、真っ赤になって、動揺してしまう。
 
「ひ、ひひひひひヒノエくんっ!?!」
「くくっ……可愛いね、姫君は」
 
離れて自由になった唇で名前を呼ぶと、ヒノエくんは楽しそうに、けれどクラクラするほど艶っぽく笑う。
またすぐにキスできそうな距離のまま、そんな風に見つめられて、頬の赤みが更に増すのが自分でも解る。
そんな私をからかうようにヒノエくんは視線を外さないまま、私の髪を一房手に取り、口付けた。
髪に痛覚なんかあるわけないのに、まるで触れられた所から熱が伝わるよう。
私はドキドキして、息をするのも苦しいのに、
ヒノエくんはいつもと同じ様に笑っている。
 
いつもこうやって、私だけ赤くなったり、ドキドキしたりして、
なんか………悔しい。
 
髪にキスをしたりして、私の髪で遊ぶヒノエくんに聞いてみる。
 
「ヒノエくん」
「ん…?何だい、姫君……?」
「ヒノエくんは、口付けする時…」
 
そこまで言いかけたけど、私はやめた。
だって、
『ヒノエくんはキスする時、ドキドキしたりしないの?』
なんて聞いたら、絶対にヒノエくん、からかうし!!
そう思って、チラっとヒノエくんを見てみると、
……私の考えていることがわかっている様な笑顔で私を見ていた。
その姿は、ヒノエくんの叔父さんであり地の朱雀でもある弁慶さんに似ていて、ああ、やっぱり2人は親戚なんだなーとか思ってみたり…。
血は水よりも濃い、って言うし。
そんな現実逃避をしている間も、ヒノエくんは私を火色の瞳で見つめている。
楽しそうな、ちょっと意地の悪い笑いを含んだ瞳。
 
やっぱり……悔しい。
私ばっかりこんなにドキドキするなんて…ヒノエくんにも、私のドキドキ、味わってもらいたい!!
 
 
ヒノエくんの眼を直視しないように(直視したら絶対にヒノエくんのペースになっちゃう)俯きながらも、
何とかして、少しでもヒノエくんに私のドキドキを感じさせる事が出来ないか考えてみる。
 
そんな私の脳裏に浮かんだ一言。
 
『眼には眼を、歯に歯を』
 
ハンムラビ法典のかの有名な一言。……やってみる価値、あるかも?
 
 
思い立ったが即吉日、な私は俯いた顔を上げる。
顔を上げたら、先ほどと変わらない瞳と笑顔で私を見ているヒノエくんとばっちし眼が合った。
 
「どうしたんだい、姫君?」
 
そうからかう様に笑う――――いつもと同じ、余裕顔のヒノエくん。
けど、私はヒノエくんの問いかけに答えず、勢いよくヒノエくんの胸元に飛び込んだ。
 
「…ぇ?……姫、君??」
 
ヒノエくんの胸元にしっかりしがみ付いて顔を上げると、私の行動の真意がわからないのか少し困惑した顔のヒノエくん。
その顔はいつもより子供っぽくて、なんか可愛い。
私は背伸びして、そんなヒノエくんの顔に顔を寄せる。
そして…
 
微かに触れるだけの、拙いキスをした。
 
 
すぐに離れる唇と唇。
私は背伸びした足の裏を地に付ける。離れるヒノエくんの顔。
ヒノエくんの表情は呆然としていて、本当に予想外だったようだ。
こんなヒノエくん、多分これから先、お目にかかれないような気がする。
驚きに開かれた瞳に映る私の頬は赤い。耳に自分の心臓の音がうるさいほど響いているのがわかる。
 
……ヒノエくんをドキドキさせるはずだったのに、どうして私のほうがドキドキしているんだろう?
 
「……………仕返し、だよ」
 
私はそう呟くと、俯いてしまった。頬が火照って、鼓動が鳴って、マトモにヒノエくんのことが見れなくなったから。
 
ヒノエくん、何も言わない…もしかして、呆れちゃった?
 
そう考えてしまって、恥かしさのあまり、瞳をギュッと閉じた。
瞬間、私の身体はヒノエくんに強く抱きしめられていた。
 
「ひ、ヒノエくんっ!?」
「望美……お前は本当にサイコーだね、オレの予想をいつも越える」
 
そういってヒノエくんは私の耳にキスをした。
耳にかかる吐息がくすぐったくて、変な声が口から出てしまう。
 
「ゃぅ…!」
「こんなにオレをドキドキさせる姫君は、世界中探してもお前だけだよ。望美」
 
そういって今度は頬にキス。
それからやっと、ヒノエくんの顔を見ることができた。
頬が少し赤くなっている、ヒノエくんの優しい顔。
その表情は何故だかわからないけど、困惑した顔や呆然とした顔よりも……歳相応に見えた。
 
「ほんと…?ヒノエくんも、ドキドキしてる??」
「ああ、ヒノエくんも…って事は、望美もドキドキしているんだね?」
 
嬉しいよ
 
そう言って、私の愛しい人は見惚れるほど綺麗に笑った。
私も嬉しくて、自然と笑顔になってしまう。
私の笑顔は、ヒノエくんほど綺麗だろうか?
わからないけど……
 
ヒノエくんの瞳の中の私の笑顔は、ヒノエくんの笑顔と同じくらい素敵だと思いたい。
 
 
 
 
 
「望美、さっきの接吻は『仕返し』なんだろ?仕返し…って言っても、一体何のだい?」
「んー…ヒノエくん、口付けばっかりするから…私ばっかりドキドキして、悔しいなーって…」
 
「…それって、オレの接吻の仕返しが姫君からの接吻ってコト?」
「………え?」
 
「そうかー、じゃあこれからも接吻し続けたら、姫君がオレに接吻してくれるワケだな?」
「え、え、え!?い、いや、ち、ちが…!!!」
「じゃあ、またしてもらおうかな」
「ちょ、まっ……ひ、ヒノエくん!?!?んっ…………ぅぁ……ふ…んぅ……っ」
 
「……っふ…ほら、望美、オレに仕返し、してくれるんだろう?」
 
 
深い口付けの後、そう艶やかにヒノエくんは笑う。
…………やっぱり、ヒノエくんには一生、勝てないかも。









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