いつからだろう

 

二人と離れてしまったのは

 

 

小さい頃は、一緒だった

 

私たちは離れることなく、同じラインに立って、同じ場所を見ていられた

 

 

 

これからも、ずっとこのままだと思っていたのに

 

 

 




「望美、遅いぞ!」

「望美ちゃん、大丈夫??」

 

夏の日差しがアスファルトを焦がす、そんな真夏日。

路地を歩く少年たちが、彼らより十数歩後ろにいる少女―――望美に声をかけた。

望美は肩で息をしながら、弾む息を整えつつも反論を告げる。

 

「まさ、将臣、…くんも、譲君…も……ハァ、……はやすぎるよ!もうちょっとゆっくり、歩こうよ〜」

「ハァ?そんなに早く走ってないぜ??お前、足遅くなったんじゃねぇの」

「兄さん!望美ちゃんになんてこというんだよ!!望美ちゃん大丈夫?何か飲む??」

 

将臣を置き去りにして、譲が望美に近づいた。ポケットに手を突っ込んで小銭を確認しながら、近くに自販機がないか探す。

だが将臣は二人に近づきながら、こう言い放つ。

 

「譲、ほっとけ。コイツが秘密基地に行きたいっていうから連れてきたんだ」

「兄さん!!!」

「ほら、望美。いけるか??」

 

そういいながら差し出された手。将臣を見れば、心配するようでいて値踏みするようでもある、そんな瞳が望美を映している。

望美は、そんな瞳を正面から見返して、手を取った。

 

「……うん、大丈夫」

「そっか。なら、いくぞ」

 

ぐい、と望美を引っ張りながら将臣は歩き出す。譲は呆気に取られていたが、二人との距離が開くと慌てて

 

「待てよ兄さん、望美ちゃん!」

 

と走り出した。

 

 

望美は将臣につかまれた腕が痛かったが、ただ眉を顰めるだけで抗議はしなかった。

将臣の歩みは、自分の歩みよりも早かったが、これにも抗議をしなかった。

 

 

昔は、平気でついていけたのだ。

時には二人を置いて、先を歩く事だってあった。

 

青い青い空の下、夏の暑さを孕んだ風を一番に感じられたのに、

どうして今は、二人よりも遅いテンポでしか、歩めないのだろうか。

 

弱音を、吐きたくない。

 

昔みたいに二人と一緒の場所にいたいのだ。

 

 

望美はそんな子供らしい自尊心から、将臣にも譲にも文句一つ言わず、くっついていた。

ジリジリと煩い蝉の音、アスファルトに揺れる影絵、乾いた暑さ、眩暈がするほど青い空。

そんな風景の中、3人は歩く。

先頭には将臣、望美は将臣に手を引かれ、譲は数歩ほど離れながらも二人に続く。

汗が伝う。望美の白いワンピースの中の細い体にも汗が伝って、微かに膨らんだ胸先がワンピースに密着する。

それに気付いた譲は、頬を染めて二人から顔を背けた。背けた先の軒先には、白粉花の鮮やかな紅。

望美の瞳はとろん、としている。熱に浮かされたような、夢を見ているような蕩けた瞳。

 

いつもより早く歩く足が痛い。

微かに尖った胸が痛い。

お腹が痛い。

捕まれた腕は痛いけど、二人と同じ時間を感じられて、嬉しい。

 

ぼやけた頭がはじき出す感情の数々。

 

足の間に、何かが伝わった。

 

そこまで感じてから、望美の意識は空に浮かぶ雲のように真っ白になった。

 

 

 

気がつけば、自分の部屋だった。

すでに鋭い日差しを振りまく日は落ちて、ぬめった宵闇が窓に張り付いていた。

しばらく状況が飲み込めず、ぼうっとベッドに寝っ転がっていると、望美の母がやってきた。

そして笑顔で告げられた言葉。

 

「望美、おめでとう」

 

告げられた言葉は、体の成長を言祝ぐもの。

そう、望美は女になったのだ。

幼児期の体から、少女の、そして女になるための一歩。

 

告げられた望美は青ざめた。

喜ぶことなく、ただ絶望に瞳を潤ませる。

服の胸元を握ると、きつく寄せられた胸先がツキンと痛んだ。

それすら認めたくないように、望美は殊更胸元を掻き抱いて俯いた。

 

望美の母はそれに気付かず、「今度一緒に下着を買いに行きましょうね」と微笑んだ。

望美はそれに触れずに、小さな声で

 

「……疲れちゃったから、もう寝る」

 

とだけ答えると、母は納得して「おやすみなさい、いい夢を」と望美の体を抱きしめた。

 

ふわりと香る母の化粧の香り、押し付けられる柔らかな乳房。

それらが望美を包み込んで、飲み込もうとするようで、望美は一筋、涙をこぼした。

 

 

 

母が出て行った部屋。月明かりも射さない、生ぬるい夏の宵が望美を包む。

宵闇に似た鈍い痛みの元は胸?腹部?それとも心??

望美は声なく泣いた。

 

ああ、あの二人とはもう同じ位置に立てないのだと、目の前に突きつけられた。

 

それが悔しくて、悲しくて、……寂しくて望美はただ涙をこぼし続けた。

 

 

 

 

小さい頃は、一緒だった

 

私たちは離れることなく、同じラインに立って、同じ場所を見ていられた

 

 

 

これからも、ずっとこのままだと思っていたのに

 

 

それがもう、振り返っても見えないほど、君たちと離れた

 

取り残されたのは彼ら?それとも私??

 

 

 

生ぬるい真夏の夜に、少女の嗚咽が溶けていく。



2006年夏の一人祭り企画『歌姫方に花束を〜Diva from Adult Soft〜』フリー配布作品。現在は配布終了。
PC・PS2・DCゲーム『AIR(Key/インターチャネル)』の主題歌・鳥の詩(歌/Lia)の
「変わらず いつまでも変わらずに いられなかったこと 悔しくて指を離す」からイメージ。
鳥の詩は『AIR ORIGINAL SOUNDTRACK』に収録されてますが、ネットで「鳥の詩 KEY」とでも検索すればmidiわんさかでてきます。




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