昔むかし、あるところに自分で毒りんごを食べた白雪姫がいました


 

小人がどんなに起こそうともしても目覚めなかった姫は王子により生き返り


 

王子とお姫様は幸せに暮らしたそうです


 

姫を起こそうとした小人を置いてきぼりにして、幸せなお城で・・・・・・





 

 

 

これはお姫様と王子様が結ばれて終わったお話の数年後




 

チュ、チュン・・・・・・・・



「・・・・・んぅ・・・・・・・・・・っ・・・・・」


快晴の日、青空と白雲、そして桜が煌く
4月。その少年・・・いや、青年はベットから置きだした。

赤みがかかった茶、大き目の瞳、人懐っこそうな口元、意外としっかりした体躯。

それと・・・色恋沙汰に慣れている雰囲気。

寝起きの気だるさからか生来の体質なのか、彼が過ごしてきた年より成熟した色香が醸し出ている。

青年は大きく伸びをして、首を回すと机の上にある写真に・・・まるで愛している人に笑いかけるように笑いかけた。


「おはよ・・・・ねえちゃん」


その写真の中には純白のウェディングドレスに身を包んだ、彼によく似た顔立ちの女性が幸せそうな笑みで微笑んでいた・・・・・

 



オレは、禁忌の想いを抱いていました・・・・いや、抱いています


実の・・・血の繋がっている姉に恋愛感情を抱いている


たとえ、姉に決まった人がいても、


もう泣き顔も、甘え顔も、呆れ顔もオレのものになることがないとしても


生涯ずっと、実の姉貴だけを愛していきます

 


あの時はまだガキだった。自分の想いにもがいて取り乱して。


かっこわりぃ事この上ない。あれでよく「いい男」になるなんていってたよな。


・・・・・・・・決して、彼女の隣に立つことは許されないとしても


彼女が誇れる兄弟でいたいから、オレはずっと「演」じ続ける


この想いを、隠して、沈ませて・・・・・・・・

 



ベットからおきだして、青年――――尽は掛けてあった制服を手に取る。

今まで着ていたはば中の白ガクランではなく、紺のブレザーに白いニットベスト、赤いネクタイにズボンといった出で立ち。

それははば中ではなく、はば学の制服。


そう、今日から彼ははばたき学園の生徒となる。

 



尽は全部着ると、部屋にある全身鏡でチェックをする。


「今日び、男も身だしなみには気を使う」彼の「いい男理論」の初歩の初歩だ。


上から下まで隅々と見る。ネクタイを直したり、ブレザーを引っ張ったり。簡単に髪を整えたり、色々細かいところをいじる。


「・・・よっし、完璧」


最後に自分を見つめてニッと笑う。うん、今日もオレってばいい男♪なんて心の中で茶化して見る。

本心は、とっても大荒れなのだが。


(あいつは・・・・もっと、似合ってたのかな?あいつはもっと着こなしてた??)


思わず、きつい眼差しで己の制服の胸のエンブレムを見てしまう。と・・・


「尽ー、さっさと起きなさいよー」


という母の声が聞こえたので、尽は鏡の自分を一瞥してから部屋を出た。

 



「おはよ、母さん」


「あら、やだ、起きてたんじゃないの。ご飯、冷めちゃうわよ」


ぶっきらぼうに挨拶をすると、母があっけなく返す。この年頃の親子なんてこんなものだ。


尽は「イタダキマス」といい、トーストを頬張った。こういう姿をしていると、年頃の少年らしく見える。

母親がエプロンを脱ぎ、たたみながら尽を見て微笑んだ。


「・・・・ん、なに?」


「ううん、あんたがもう・・・ここに来たときのおねえちゃんと同い年なんて信じらんないなぁ、って思っただけよ」


「何それ」


「アンタのほうが大人っぽいっていうかませてるっていうのか・・・なんか不思議な感じ」


くすくす笑いながら母さんは尽を見る。尽は答えず黙々とパンを齧る。

母はそんな息子の様子を知ってか知らずか、少し遠くを見てまた言った。


「・・・・あの子がはば学に行ったとき、こんなに早くお嫁に行くなんて思わなかったわ」


その声音には少し寂しさとか・・・そういうものが混じっていた。

尽は居心地の悪さからマグカップを持ち上げて、コト、とおいた。その音で母の焦点が戻る。

「あ。ごめんなさいね。ほら、早く食べちゃいなさいよ・・・あたしは着替えて化粧していくから先行ってなさい」


「ああ」


ガタっと立ち上がり、母はダイニングから出て行く。途中、思い出したように振り替える。


「あ、忘れてたけど、今日おねえちゃん来るわよ」


「んぐっ!!!」


尽は思わず、飲んでいたスープを吹きかけて、無理やり飲み込んだが、器官に入って咽た。

いい男も形無しといわんばかりに咽てから、ぜぇーぜぇーと肩で息をし、母を睨む。


「な・・・なんで?」


「おねえちゃんだってはば学生だったんだからいきたいんじゃないの?

 こっちに寄るって言ってたからもう少しで来るわよ。食べたらそれ、流しにおいてね」


そういうと母は息子を置いてきぼりにして、そのまま行ってしまった。

尽はすぐさまマッハで食事を終え、また身支度をしに自室へ戻った。



 

・・・・今日は来て欲しくなかったよ。


会いたいけど、逢いたいけど・・・・・今日はあいつとねえちゃんがはじめてあった日。


比較されるのが嫌なのに、なんで来んだよ・・・・


ねえちゃんの・・・鈍感・・・・・・・

 



どんなに身繕いしてもあいつに負けているみたいで、鏡とにらめっこしていた尽だけど、チャイムの音で我に返った。

鞄を持って、玄関に駆け寄る。


「ねえちゃん!!!」


ドアを開けると、尽の想い人である――――今は人妻である姉が玄関の向こうの門で待っていた。

柔らかい暖色のスーツに身を包み、うっすらと化粧をしている。


「尽ー、遅刻しちゃうわよー」


高校時代と変わらない朗らかな笑顔で姉は尽に笑いかけた。優しい暖かい笑顔。


尽は想いを沈ませて


「まだまだ遅刻しねーって」


と姉弟らしい会話をした。姉はふふっと笑い、早くーとせかす。尽はスニーカーをはいて外に出ようとした。

その時姉は、日の中に出た弟を見て、呆気というような声音で言った。


「尽、かっこいいねぇ・・・・・あたしが見た中でも一番、似合うよ。制服」


「・・・・・・・・・・・・・・え?」


「うん、かっこいい。さすが、「いい男」目指してるだけあるね」


にこやかに微笑む姉。尽はほとんど姉の言葉を流して、考えた。


(今、一番っていったよな・・・・もしかして、あいつに)


「勝った・・・・・・?」


うわ・・・マジうれしい・・・。顔に血液が集まってきて、赤面したのがわかる。思わず手で顔を覆った。


「尽ー?大丈夫??具合悪いの??」


姉がそんな弟の姿を見て心配そうに声を掛ける。尽は平気だ、と返事をして、まだ朱の残る顔をあげた。

そんな尽を知らない姉の笑顔がまぶしい。


「ほらー、尽。いこっ??」


姉が腕を伸ばす。それは小さい兄弟なんかによく見られる風景。

社会人になってまでする姉に少し呆れながらも、尽は腕を伸ばした。

柔らかい手。

それはもう別の人のものだけれども・・・・・



 

――――――――――ゼッテェ負けねえ



 

尽は心の闘志を隠して、優しく笑ってその手を握り返した。




 

やっとあの時のねえちゃんと同じラインに立てた。


・・・遅くなったけど、それでも同じラインに立てたんだ。


横には、導いてくれるねえちゃんがいるなんて・・・


お前じゃ絶対出来なかったよな???


オレはオレの特権をフルに使ってやるからな!!!


見とけよ!!!



 

心の中の彼女の夫に不敵な笑みをした。






今、尽は六年の時を越えて、姉と同じスタートラインを踏み出した。












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