夢に見る。

あの時空の貴方の最期を…




「望美さん?」

名を呼ばれて、望美は瞳を開いた。
目の前には夢の中で微笑を浮かべたまま消えた男の顔が、月明かりに照らされて闇に浮かんでいた。
一瞬、夢の続きかと思ったが、すぐに現実を思い出す。
――――――この時空は、あの時空を上書いたものだと。

「べん…けい、さん?」

寝起きの掠れた声で弁慶の名を呼べば、弁慶はほっと安堵したように笑った。

「大丈夫ですか?随分とうなされていましたけど…」

心配そうに弁慶に見つめられて、起き上がった望美は柔らかく笑った。

「大丈夫です、すみません…起こしちゃいました、よね?」

弁慶さん、明日も朝が早いのに…と言いかけた言葉は唇から出る事はなかった。
何故なら、弁慶が真剣な瞳で望美を見つめていたため、言葉は咽で縫い付けられてしまったためだ。

「望美さん…僕に遠慮はしないで下さい。
 君が煩う事でも、喜ぶ事でも、僕は君の事なら何でも分けて欲しいんです」

そっと、しかし反論できない強さを持って、弁慶は望美に囁く。
望美は夜目にもわかるほど、赤面して小さく言った。

「…はい、わかりました」

その返事を聞いて、弁慶はいつものように優しく笑った。

「わかってもらえてよかった…水でも飲みますか?」

そう問われて望美は、うなされていたためか自分の咽が渇いていることに気付いた。
一度気付けば、渇きは止まらない。

「あ……頼んでいい、ですか?」
「もちろん。では少し待っていてくださいね」

申し訳なさそうに言う望美に、にこりと笑いかけて、弁慶は褥から抜け出そうとする。

――――― 一瞬、望美の頭に鮮明に浮かぶ、上書きする前の最期の笑み



「…………望美、さん?」

彼にしては珍しく、困惑した声で望美の名を呼んだ。
望美はその声を聞いて初めて、自分が弁慶の着物の袂を掴んでいることに気が付いた。

「え………あ、え、きゃ、す、すみません!!え、えーと深い意味はないんです。
 嘘とか遠慮じゃなくて本当に無意識で……何やってるんでしょう、私」

急いで握っている手を離して謝るが、口が上手く回らず頓珍漢な事ばっかり言ってしまう。
うまく謝ることも出来ない自分が恥ずかしくなり、黙ったまま俯いて、小さく「ごめんなさい」と呟いた。
しかし弁慶は答えを返さない。気を悪くさせたかと不安に思い、上目遣いで弁慶を見る。
瞬間、望美の世界は反転した。
冷めかけた布団の上に手を縫いとめられ、その際にむき出しにされた腕にさらり、と弁慶の長い髪が垂れた。
柔らかい癖毛が望美の肌を擽る。

「望美さん、君はいけない人ですね…。
 僕をこんなに惑わせて」

熱っぽい瞳で見つめられ、尚且つ低くて艶がある声で囁かれると、
望美は弁慶の熱が伝染したように、熱が内面から生まれてくるのがわかった。

「弁慶さ……んぅ……っ」

名を呼ぼうとした唇は、弁慶のそれで塞がれた。
すぐにぬるりとした舌が口内に滑り込み、望美はいい様に翻弄されてしまう。
どちらとも知らない唾液が、望美の喉を潤す。


体が熱で満たされる度、
息を奪われるほどの口付けを交わす度、

弁慶を感じる度に、

泣きたくなるほど嬉しくて、そして切なくて



長く激しい口付けの後、離れればつぅ…と月明かりに光る銀糸が二人の間を渡る。
上がった息だけが、月が満ちる柔らかい闇を揺らす。

「弁、慶さ…ん」
「何ですか?」

ここにいて、下さい

その言葉は声にならずに唇はただ、声にならないそれを形作るように震えた。
しかし弁慶には伝わったのか、彼は甘く優しく咲って、望美に覆いかぶさる。
望美は深く褥に沈む弁慶の背中に手を回す。


優しく降りるキスが永遠に続くといい、とばかりに望美は弁慶の背中に強くしがみ付いた。











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