注意:PS2用ゲーム「Scared Rider XechS」内の重大なネタバレがあります。
プレイ予定、もしくはネタバレを避けたい方はブラウザのBackで御戻りくださいませ。

なお、この作品はゲーム本編でいうタクトMルートの「if」ストーリーとなっております。
それに不快・疑問を感じられる方もブラウザのBackで御戻りくださいませ。





















どんなに堅牢な城であれ どんなに強固な盾であれ

それが「物」として存在する限り

崩壊する事は定めである


ましてや世界の命運をその嫋やかな体で背負い

幾度と知れず紅と青の世界に玩ばれた少女が

今まで正気であった事が可笑しいのだ



それはある日

突然、世界の柱が崩れた時のようにやってきた

何が原因だったのか、などと問う事はもはや意味をなさないだろう

―――――自らも、少女へ負担を強いた一因なのだから―――――




タクトは自らの腕の中に愛しい少女……彼女を守るために世界に殉じ、
また彼女を救うために世界を壊しても構わぬとまで想うほどに愛しく思う少女を抱えたまま、
紅の世界から崩れゆく青の世界を見ていた。
美しい青が紅に侵食されていく様はおどろおどろしいが、何処か美しいと感じるのは
己が紅の世界の住人となったからか、その侵食こそが腕の中の少女の救いの形だと理解しているからだろうか。
「たく、とくん」
腕の中からたどたどしく己の名前を呼ばれ、タクトは青の星から愛しい少女へと視線を落とす。
くい、と首を仰け反らせてタクトを見上げるアキラの表情は、
常に見せていた凛とした気高き様が抜けていて、どこか現実味がない不安定な虚ろなもの。
ただタクトだけを映している黄金の瞳だけは輝いていて、その色彩こそが彼女の運命が解放された事を表していた。
「どうした、アキラ?」
「タクト、くん」
タクトの甘い問いかけにアキラはへにゃりと歪んだ満面の笑顔を浮かべ、タクトの頬に手を伸ばした。
タクトがその手を握ってやると、アキラは幸せそうに微笑む。
その幼い仕草にタクトは触れた事などない猫を思い出した。
「タクトくん、すき。だあいすき」
「ああ、僕も貴方を愛しているよ、アキラ」
「いっしょにいてくれる?」
「ああ、ずっと一緒だ」
そう言って握ったアキラの手に口づけると、アキラはきゃっきゃと笑う。
彼女らしくない明るさにタクトの胸の奥がチリリと痛むが、それ以上に彼女に求められている幸福の甘ったるさが胸を満たす。



―――――アキラの精神が決定的に崩壊したのは、月を打ち砕いた直後であった。
何がアキラを壊したかなんて、誰にもわからない。
終焉の見えぬ青と紅の世界の残酷な遊戯で蓄積されては忘れさせられる途方のない心労、
彼女が愛する世界が彼女に愛しみを持たなかった事、
愛した男を愛したままで対峙しなければならぬ現実、
希望を抱いてもすぐに絶望の腕に絡め取られるような戦況……
数を上げようとしても上げきれないほどに、彼女を壊す引き金が多かったのだから。
最初に崩壊したのは涙腺であった。
ぼろぼろと流れる涙を止めようとする先から、崩れていく体と心。
そして精神が瓦解したアキラが求めたのは、人類やライダーズ達でも、ナイトフライオノートでもなく、
ましてや青の世界でも、紅の世界でもなく
ただ

『タクト君……!!タクトくんタクトくんタクトくんたくとくんたくとくんタクト君……ッ!!!!!』

たった一人の存在だった。
少女は己の存在意義……応えようと必死であった原動力である
男への想いのみを胸に抱いて、その他すべてのものを手放した。
……いや、それだけしかもう彼女は救えなかったのだろう。
大切なものは数多かれど、現実に耐えきれなくなった彼女が、
最後まで手放せなかったのがたった一人だったのだ。しかし誰が彼女を責められようか。
世界の柱であった彼女を貶め、繰り返される下らない時間稼ぎの遊戯に巻き込んで、
彼女という存在を軽視し辱めたのは青であれ紅であれ「世界」なのだから。
それほどの仕打ちをしておいて、誰が彼女を責められようか。
たくさんの大切な物を手放しても、最後まで彼女が手放せなかった一人の男の存在。
壊れてもなお離さなかった、離せなかった、その想いは死に限りなく近い愛。

―――――タクトがかつての仲間をエゴのために屠り、
彼女の元に辿り着いた時、彼女は自らタクトの胸に飛び込んできた。
驚くタクトの頬をその手で包み、涙が止まらない壊れた瞳でアキラは幸せそうに笑って、

「     」

何かを呟くと、そのまま意識を失った。
安堵したように微笑んだままの頬に、とめどなく涙を零しながら……。
その暖かさ、柔らかさを腕に抱いて、タクトは愕然とした。

彼女を救おうと思った。
彼女のためならば世界なんて壊れてしまえ、と思った。


だが、彼女がこのようになるなんて、タクトは夢想すらしなかったのだ。
常に気高く冷静に、時にこちらを鼓舞するように明るく朗らかな戦闘指揮官。
世界のために、その華奢な手で仲間の命を絶てる決断力もある。
どんな非業ですら否定せずに現実と受け入れ、最適な行動が取れる第六戦闘ユニットISの唯一の教官。
彼女が女神であると気付いたからか失念していたのだ。彼女がただの少女でもある事を……。
だが同時にタクトはこれ以上にない喜びも感じていた。

彼女の意思すら関係ない。ただ彼女の解放を。


ただそれだけを胸に刻んで、タクトは行動を起こしたのだ。
それほどまでの想っている彼女の精神が瓦解しても、最後までその手に残したものが
「霧澤タクト」であったという事実は、タクトの歓びとなって胸に満ちる。

現実を拒絶するように固く瞑られた瞳から零れおちる涙は、
彼女からの「青の世界」…いや、タクト以外の全てに対する餞だろう。
それすら彼女を苦しめたものに与えるのは惜しいとばかりにタクトは舐めとる。
舌先から感じる生温かな甘やかさに、タクトの口の端は自然とつり上がった。



「タクトくん?」
過去の涙の味に想いを馳せていたタクトを現に戻したのは、もう涙を流していないアキラの声。
見下げれば、焦点が合わないがタクト以外を映さない大きな瞳の中に、柔らかな笑みを浮かべた己の姿。
「タクトくん、だいすき。いっしょにいてね?ずっと、ずーっと」
「ああ、もう……離さない。愛しているよ、アキラ」
そう囁いて口付ければ、二人の間から紅がかった黄金の光が波紋状に広がる。
しかし、そんな事、タクトにとっても、アキラにとってもどうでもいいのだ。

己の腕の中には愛しい愛しい少女がいつも微笑んでいる事。
己を抱きしめて離さない愛しい男からの優しく甘い口付け。


二人にとってその事の方が世界の終焉より、ずっと重いのだ。


―――――世界は、静かに紅へと堕ちた。


何が書きたかったって頑張りすぎて精神崩壊しちゃったアキラさんなんですが。
本編だと「アキラさんマジ黄金の女神」って感じに気丈なんですけど、
自分、精神崩壊ネタ好きなんですよね。差別用語にあたるはずだから言えないけど、ホワイトなあれとか。
外的原因によって退行しちゃうとかもう最高に萌える。で、面倒見る方がある程度正気持ってるとなおさらいい。(そもそも面倒見れる時点でどっか正気ないんですが)
なのでタクトMルートでのifってイメージです。イメージだけだけど……。

けどあんま退行状態書けなかったなー。タクト悶々とさせる方ばっか悩んでた気がする。
タイトルは愛しの歌姫・片霧烈火嬢の同名曲より。
別にイメージソングではないんですが、あれを聞いた時に「あ、精神ぶっ壊れて退行しちゃったアキラって萌える」と思いついたんで。


10/07/14/up

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