瞬君のバイトも学校も、バンド練習すらない貴重な一日フリーの日。瞬君の部屋に私は瞬君と一緒にいた。
勝手しったるなんとやら、キッチンで紅茶を煎れて戻ってくると、
瞬君は床に直に座って、ベース片手に作曲活動にいそしんでいる。
私は静かに紅茶をテーブルの上に置いてから、背後にそっと近寄り、耳元に唇を寄せて

「しゅーんくんっ」
「うわぁっ!!?!
 …………って何だ、悠里か」

よっぽど集中していたのか必要以上に驚いて、
でも私を見ると柔らかい笑顔。
ちょっとした優越感に私は微笑んで、
そのまま視線を瞬君の顔から手元の五線譜へ移す。

「新曲、煮詰まってるの?」
「ああ……少しな。ここの進行が2パターン浮かんで、どっちにするか悩んでいる」
「ふふふ、期待してるわね」
「当然だ、悠里への愛が詰まってるんだからな。期待以上の歌にする」


『一人で悩んでも埓があかないな……明日、祐次に相談するか』と呟いて、
瞬君は譜面をファイルにしまった。
ベースもしまおうとして、不意に思い付いたように

「そうだ、悠里。貴女が決めてくれないか?」
「え、私が??」
「ああ、そこだけがネックで後は出来上がってるしな」
「うーーん、……折角だけど止めておくわ。
 楽しみが減っちゃうし、それに……」
「それに?」
「……………瞬君の曲はどれも素敵だから、決められない自信、あるわ」

怪訝そうな顔の彼に、真剣にそう告げたら、
面食らった顔の後に、赤くなって怒ったような表情に。
内心、怒らせてしまったかとハラハラしていると、瞬君がぼそりと一言。

「…………悠里はズルい。そんな可愛い事言われたら……」
「へ?」

反転する視界、覆い被さったのは瞬君。
熱っぽく潤んだ瞳は艶があって、伝染するように私の体の奥に熱がともっていく。
肌を擽る緋色の毛先にすら熱が煽られて。

「…………理性が、吹っ飛んでしまうだろ?」

ぶっきらぼうに囁かれるそれには余裕なんて感じられず、
私が答えを返す前に瞬君は、頬に額に首筋に、ラブソングよりも甘いキスを降らしていく。


「ん……ぅ……しゅん、…くん…」
「? 悠里……嫌、か?」


愛撫の合間に名を呼べば、気遣うような、落胆したような憂い顔。
不安を全面に出した瞬君に、ニコリと微笑み、
シャツを脱がそうとしている不埒な右手を捕まえて、私の顔前まで導く。


バイトのしすぎで少しかさついているその手の指先は、
ベースを奏でるために固い。


万人を魅了する音楽を紡ぎ、また音楽に囚われている、愛しい人の手。


「…………大好きよ、瞬君」

囁いて、指先に子供のような淡いキス。
そんな幼けな告白でも、彼の最後の理性が弾けたのがわかり、
煽るように指先を舐めれば、そのまま口内に突っ込まれる。


「ああ……オレもだ……愛している、悠里」

甘い熱を孕んだ囁きを耳朶に吹き込まれ、私はぼんやりと古い格言を思い出した。



の上なら尊敬のキス。
の上なら友情のキス。
の上なら厚情のキス。
の上なら愛情のキス。
閉じた目の上なら憧憬のキス。
の上なら懇願のキス。
なら欲望のキス。
さてそのほかは、みな狂気の沙汰





(なら、この想いは狂気かしら?)


けれども瞬君の噛みつくような耳へのキスが、最後の思考すら食い尽くした。


劇作家 フランツ・グリルパルツァー 「接吻」より



VitaminX in Web拍手用…に書き上げたけど、短文にしては長い気がして普通にアップ。
指、噛ませようかと思ったが、展開が続かなかった。指は手じゃないのか?というのはL3で!!個人的には指は手に入りません!(お前の趣味か)
最初に指先に口付けた悠里、そして最後に耳に口付けた瞬。甘さの中にどちらも狂気を孕んでる…みたいな?
ヤンデレ迷走中です、ヤンデレを教えてアルムの木ー!(最強武装のヒキコモリに撃たれますよ)







07/06/02/up


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