口付けをする。優しい、甘い、激しい・・・様々な口付け。


それは幾度繰り返しても息と鼓動、そして心を奪われる

 

それはどうしてかしら?

 

 



その日、新生の宇宙の女王であるアンジェリーク・コレットは久しぶりの休暇に、
白亜宮の若き王であり、元・新生宇宙の女王候補達の品位の教官でもあった恋人・ティムカと
共にアルカディアデートに来ていた。
互いに元の暮らしに戻ってからは当たり前だが、
以前のように毎日の様に会うわけには行かないので自然としばらくぶりとなる。
よってまだ年若い純情な恋人達が、ロマンティックな花畑でお話だけで留まらずに、
目と目が合った瞬間に口付けなんかしてもおかしくないわけで………。

相手と自分の温もりを交換し合うような長い口付けの後、
熱で潤んだ瞳でティムカを見上げてアンジェリークは問うた。
 
「ティムカ様って、私以外とキスした事あります?」
「!?んなっ…!? ア、アンジェ、いきなり何をいいだすのですか??」
 
いきなりの恋人の思いがけない質問に、ティムカは顔を真っ赤にしながら彼女に問いかけた。
その様子は、普段の穏やかで聡明な少年王の姿はなく年相応で、アンジェリークは不謹慎ながらも顔を綻ばせた。
その様子を見て、ティムカが怪訝な顔で彼女を見つめる。
「いけない、変に思われたかしら」と思い、慌てて口を開く。
 
「ティムカ様ってキスが巧い気がするんです。
 だってティムカ様とキスするとすっごく気持ちよくって、幸せになれるから」
 
だから他の方とも経験があるのかなと思って聞いてみたんです、いきなり聞いて驚かせてしまったらごめんなさい。
そう笑って見れば、甘味と苦味が混ざったような……とにかく複雑な顔をしたティムカがいた。
 
「ティムカ様?」
「……そう言われると、正直複雑な気持ちです。
 あなたが僕とのキスで気持ちよくなってもらえるのは嬉しいですが、
 慣れている風に思われるのは少しショックですね」
 
慣れている………その意味を理解したアンジェリークは頬を林檎のように真っ赤にして、早口で弁解した。
 
「ベ、別にティムカ様が私と付き合う前に誰かと付き合っても、私気にしませんし!
 ……そりゃまったく気にならない訳じゃないですけど……
 ってああ、もう私ったら何を言ってるのかしら??
パニック状態で、言った先から訳がわからなくなっていくアンジェリークを
見つめているティムカは、先ほど見せた年相応な顔が嘘みたいに消えていた。
代わりに顔に浮かぶは穏やかな笑顔。
それは愛しい人を『愛しい』と、素直に感じられる幸せな笑顔。
ティムカはその笑顔のまま、アンジェリークを引き寄せ、額にキスをした。
鼻先をかすめる甘い花の匂い。
それは彼女のシャンプーの香りか、それともこの理想郷一面に咲く花のものなのか、ティムカには判断できなかった。
 
一方、アンジェリークは不意打ちのキスで驚きはしたものの、
触れ合った額からまるでくだらないものを吸いとられたように思考がすっきりとしてきた。
額から温かさが離れて、ブルーグレーの瞳に桃色の頬をした自分が映る。
魔法にかかったように素直に、アンジェリークは話しだした。
 
「・・・・・何て言うか、さびしいって思ったんです」
「?  さびしい??」
 
ティムカは彼女の言うことが掴めないのか、聞いたことを繰り返して問う。
アンジェはコクと頷き、続きを話す。
 
「私はティムカ様とお付き合いするまで、
 男の人と付き合ったことってなかったから、きっと下手だと思うんです。
 その・・・・キス、とか」
恥ずかしがりながらも真っ赤になって小さく呟くアンジェリークの様子に、ティムカもつられて頬を染める。
 
「でもティムカ様はすごくお上手で・・・・ひとりだけ幸せなのも嫌だなって」
 
もっとティムカ様にも幸せになってほしい・・・
私だってティムカ様の事が大好きだから
 
最後の方は蚊の鳴き声と比べても小さいほどの声だったが、
ティムカには聞こえたようでティムカは頬を染めたままアンジェリークを抱き締めた。
唐突の抱擁にアンジェリークは驚きの声をあげる。
 
「きゃっ!?ティ、ティムカ様??」
「・・・・・アンジェ、今僕の顔を見ないでくださいね?
 あなたがあまりにも可愛いことを言うから、理性が切れそうですよ・・・それに」
「それに・・?」
 
そう聞けば、何かを堪えるようにギュと力強く抱かれて息が苦しい。
だがアンジェリークは抗議を一切せず、ティムカのなすがままに抱かれていた。
手が震えるほど強い力で、ティムカが自分を想ってくれている。
その事がとても嬉しくて、幸せだったから。
ドクドクドク、という力強い鼓動がすぐ耳元に聞こえる。
それは自分の鼓動か、ティムカの鼓動か・・・・わからない。
それほど近くて、幸せで
 
アンジェリークは幸せな微笑を浮かべ、ティムカの背中に優しく腕に回して抱きしめた。
 
 
――――それに、貴方の言動にいつもドギマギしてるのは、僕のほうです
     これ以上の幸せを与えられたら、きっと満足できなくなってしまいます
 
 
 
アンジェリークは知らない。
ティムカが彼女にいっぱいいっぱいなのを悟られないように、いつも精一杯な事を。
アンジェリークは気づかない。
口付け合う時のティムカの鼓動の喧しさに。
アンジェリークは見えない。
今のティムカの頬の赤さは、自分以上だと。
 
・・・・・・互いに互いの事で精一杯で、でも互いを想いやる、若い恋。
それはそれでいいじゃないですか。

 

 

 

啄むようなキス、息を奪う程のキス、想いを確かめるためのキス、仲直りのキス

 

様々なキスを幾度繰り返しても、息と鼓動、そして心を奪われる

 

それはどうしてかしら?

 

――――――それはやっぱり、恋の魔法ってヤツでしょう











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