「おい、望美。朝だぞ起きろー」

朝、望美を起こすのは将臣の役目だ。
…といっても、将臣と望美しかこの邸には住んでいないのだから、当たり前と言ったら当たり前の話だが。
凛々しい「源氏の神子」が朝に弱いのは、有名な話。
今から思えば怨霊を使うより、朝に奇襲をかけた方がよかったのではないかと思うぐらいそれは酷い。
生まれた時からの付き合いである将臣もその事はよーーーっく知っていて、自分が望美を起こす事に今さら疑問は持たない。
将臣に揺すられた望美は小さく寝返りを打った。

「ん…ぅ」
「ほら、のーぞーみー。いい加減起きろって…」

将臣はさらに強く揺する。望美は眉を顰めながら、薄く瞳を開ける。
が、目に飛び込んだ南国の日差しに目をやられたのか、さらに深く布団に包まった。

「やぁ…だ……まだ、ねむ……ぃ…………くー…………」
「って、おい寝るなよ!!本当に、お前、朝弱いよなぁ」

心底、呆れたように呟かれ、布団に包まっている望美はカチンとくる。
確かに望美は朝に弱い。
この世界に来る前は母の手を、この世界に来てからは朔と譲の手を散々煩わせたのは事実。
しかし、ここ最近は本当に寝不足で朝に起きられないのだ。
……将臣との夜の生活は、望美を今まで以上に
朝に起きられなくしている理由として十分成り立つだろう。

「………誰かさんが、夜寝させてくれないから、睡眠不足なんですー」

布団に包まったまま、ツーンと拗ねたようにそう告げると、将臣から意外な言葉が返ってきた。

「へぇ…じゃあ何だ?夜じゃなくて、朝からヤれって事か?」

その返事を聞いて、望美は布団を跳ね除け飛び起きた。
対応の速さは、先ほどまで駄々を捏ねていたとは思えないほど素早い。

「なっ…!!何バカな事言ってるのよ、将臣くん!!バカ、えっち、変態、ケダモノ!!!」

真っ赤になりながらも思いつく限りの罵倒を将臣に浴びせる望美。
その様は男を知らない処女のようで
『毎夜、あんだけ可愛がっているのに…』と将臣は心の中で反論する。
表立って反論しない理由はしたら最後、今以上に真っ赤になって卒倒するのではないかという心配からだ。
しかしそんな様子は微塵も見せずに将臣は跳ね除けられた布団を手に取り、望美の手に届かぬ所に置く。
それからニカッと、空に浮かぶお天道様のような明るい笑顔で望美を見た。

「よし、起きたな。オハヨウ」
「……!! 将臣君、謀ったね!?!?」
「謀ったって…お前、朝っぱらからよくそんな言葉出てくるな」

まるで死刑宣告を受けたような悲痛な望美の声音に、大袈裟なと思って肩をすくめる。
事実、「謀った」わけではないのだ。あの言葉に本音があるのも真実。まぁ、まず言わないが。

「お前がさっさと起きないのが悪いんだろ?お前、寝すぎ」

将臣がそういって、『さぁ、メシの支度するか』と望美に背を向けた瞬間、

ガシッ!!

と羽交い絞めにされて動けなくなった。

「ふふふ……」

背中に当たる胸の感覚よりも、地の底から響くような望美の笑い声が将臣を恐怖させる。

「の、望美さーん……?」
「ふふ…まーさーおーみーくーーんーー……」

名を呼べば、何処か楽しげに、
けど将臣にはプレッシャーを与えるという微妙な声音で望美は将臣を呼んだ。
それから羽交い絞めにしている腕をずらし、わき腹に手をあてると…

「えーい、腹いせに擽ってやる〜!!!」

見なくてもわかるほど子供っぽさ満載の笑顔で、将臣を擽りはじめた。
突然の攻撃に、将臣は驚きつつも笑いながら反論する。

「っておい、ハライセかよ!?んなくだら、な…ック、いこと、やめ…わ、ワハハハハッハハ!!!」

しかし反論も途中で、笑い声にかき消される。
ただでさえ、わき腹は将臣のウィークポイントなのだ。
それを承知している望美はそれはもう楽しそうに、将臣のわき腹を擽る。

「こちょこちょこちょこちょこちょ〜♪ほーれ、ほれ♪」
「ワハハハハ、ハハッハ、…のぞ、やめ……ワハハハハ!!」

やめさせようとしても、望美の細い指が舞うように将臣の弱点を擽るため力が入らない。
しかし力を振り絞り将臣は望美の手を掴むと、布団へと組み敷いた。
反撃されると思っていなかったのか、きょとんとしたあどけない表情で将臣を見上げる望美。

「…ぇ?」

驚いたまま固まっている望美の瞳に映る将臣の表情は、どこか意地悪そうな不敵な笑み。
タラリ、と望美のこめかみを冷や汗が伝ったのがわかった。

「ま、将臣君…?」

桃色の唇から漏れる呟きのような呼びかけはかすかに震えている。
形勢逆転。
将臣はにっこりと笑うと…

「望美、お前さっきはよくもやってくれたな……?お返しだ、おらおらおらー!!」
「え、きゃ、ちょ、やめ…!きゃははははっ!!
 あた、し、あはは、くび、よわい…のしってるく、せに、きゃははははは!!」

先ほど自分がされたのと同じ様に将臣は望美の細い身体をなぞる様に擽る。
そう言えばどこかエロティックな雰囲気が漂うが、実際の所、擽る将臣も擽られる望美も笑顔で騒々しくエロティックとは縁遠い。
まるで子犬同士がじゃれるような、そんな微笑ましさすら思える遊び合い。

「あははっ、はー……もー、だめぇ…」

笑い疲れて涙すら浮かべて、先に降参したのは望美の方であった。
身体で大きく息をつく望美を見て、将臣は「参ったか?」と彼女の潤んだ瞳を覗き込む。
すると、また小さく望美は笑った。

「ん?何だよ」
「まさ、お、みくっ……あた、ま…ボサボサ…」

まだ息が整っていないため、途切れ途切れにそういうと将臣の頭に触れる。
そして撫で付けるように優しく頭を触る。
将臣はその感触に照れて、望美の潤んで今にも零れ落ちそうな瞳に指先をやる。

「お前もすっげー涙目…」

目元をすっと撫でれば、瞳を薄く閉じた際に溢れた涙が指を浸した。

「ふふ…」
「何だよ?」
「いや、幸せだなぁ…って」

そう何処かくすぐったそうに笑う望美。それから優しく笑って、

「将臣君は、幸せ?」

と聞いた。将臣は望美と同じ位、優しく笑って

「幸せだよ、俺も…な」

と望美の額にキスを落とした。



君がいて、私がいる

鎧越しではなく、素肌で触れ合える

剣ではなくて、互いの手を握れる

それがほら、こんなに幸せ








ブラウザのBackで戻ってください


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送