パールグレイ夜明

ハチミツ







真珠色の光が瞼を刺した。

優しくて、温かくて、どこか寂しく揺れる玉響の色彩。



瞳を上げると、ようやっと自然に見慣れたと思えるようになった、瑛の部屋の天井が見えた。
その灰白い天井を色付けているのは、ゆらゆら波のようにたゆたう夜明と明け方の間にひかれる真珠色のカーテンの残像。
綺麗だな、と寝起き特有の気怠い頭―――いや、体も十分気怠いので全身か、でぼんやり思っていると、いきなり視界が反転した。
天井の代わりに視界を塞いだのは、小麦色に焼かれた男の胸板。
鼻先を霞めるのは、髪の芯まで染込んでいる潮の香りと、私の匂いと混じってちょっとだけ何時もと違う瑛の匂い。
後、二人で過ごした夜明にしか香らない蠱惑的な―――ハチミツに似ている瑛特有の甘い香りに包まれる。
腰に回された腕は逞しく、私を完全に固定している。
前髪が瑛の鎖骨を撫でた。
くすぐったくないのかな?と考えて私は小さく笑った。

「………んぅ?」
もぞり、と私を抱き締めた体が動く。
見上げれば、瑛の瞼がゆっくりと上がっていくのが見えた。
瑛の瞳の色は夜明の日の出より、綺麗。

「……?」
「起こしちゃった?」
「んー………今、何時?」

瑛の寝起きはよくない。
高校時代に昼寝現場に遭遇したことがあったから知ってたけど、
まだ覚醒前の瑛は年齢より幼くて、実はちょっと可愛いな、なんて思っていたりする。

「まだ寝れるよ。寝る?」
「ん……」

私の言葉に答えずに、瑛は既にスリープモードに突入らしい。
ぎゅっと私を強く掻き抱くと、

「………起きた時いなかったら、チョップな」

とだけ言って、すぐに寝息が耳元を擽った。
私はその発言に、瑛が起きない程度の声を上げて笑う。

「これだけキツく抱き締めておいて、離れる事が出来るって思ってるのかな?」

そう呟くと、穏やかで幸せそうな寝顔にキスをする。
夢の中でも感触は伝わるのか、寝顔がちょっとだけ弛んだ気がした。
それと比例するように、私を捕えている腕の力が増す。
まるで、お気に入りのぬいぐるみを誰にも盗らせまいと抱き締める少女の様なその行動に、私は苦笑のような笑みを漏らす。


こういう時、瑛ってでっかい子供だなぁ、って思う。
一人で強がって、内心震えてる意地っ張りなお子様。
一回、私を不本意でも突き放したから、そのトラウマになってるんだろうなって思う。


「……もう少し信頼してくれてもいいのに」

不安だって、怖いんだって
言ってくれれば私から抱き締めて、何かが出来るのに

――――きっとプライドの高い臆病な瑛はそんな事、おくびにも出さないだろうけど



だから私の精一杯の優しさは
どんなに壊れそうなほど強く抱き締められても、何もいわずに背中に腕を回す事だけ





(―――ああ、真珠色綺麗だなと考えながら、

 私は
窒息しそうな程強い抱擁に溺れていく)



2006/09/08/up


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