S k y U
12月もなかばに近づいてきて、肌を刺すような冷たい風が吹きさぶ今日。
部活もやってない。1週間前に始めたバイトも休み。
だから僕は、いつものあの丘に来て空を見る。
今日は雲が少ないから、冬特有で空がもっと広く見える
あれから・・・。
あれから、僕達の関係は少し変わった。
それは、傍から見ても分からないくらい少しで、あいつ、慶吾も気付かないくらい少しで、だけど、僕が感じるくらいに大きく変わった。
原因は、もちろんボク。
僕が本当の失恋をしてから、2週間が経つ。
慶吾たちを認めて、受け入れたのはいい。
うれしそうな顔は僕の心を落ち着かせてくれるけど、それと同じくらい僕の心を苦しめる。
そのたびに僕は、慶吾を忘れられていない僕の心に、嫌でも気付かされる。
やっと落ち着いてきたのに・・・。
そんな気持ちに気付きたくなくて、僕はバイトをすることにした。バイト先は古い喫茶店。来年で70歳になるマスターは、とても優しくて良い人だ。
そのおかげもあって、僕の一週間は、部活に入っていないにも拘わらずほとんどが予定で埋まっている。
“明日は圭君の特別な日だからね。誕生日おめでとう。”
そう言って、マスターは休みをくれた。
でも、そんな休みなんて欲しくなかったのに・・・。
今はただ、何も考えられないくらいに、何かに没頭していたいのに・・・。
『圭、今日誕生日だよな。あめでとう。』
・・・・・ア リ ガ ト 。
慶吾に言われても、マスターに言われても、心から“ありがとう”が言えない。それでも、笑顔で言わなくちゃ。
・・・僕の心の中を悟られないように。
寒い。
夕日に染まっている空は日がどんどん暮れて、あと数分後には顔を隠すだろう。
その数分間にしがみついて、僕はこの場所から離れられない。
少しでもいい・・・。
ほんの少しでもいいから、今はまだこの場に癒されていたい。
何もしないで、独りでいるのは嫌なんだ。
あと数分。
その数分間の夕日をじっと見ていると、誰かが丘を登ってくる足音がしてきた。
誰だろう・・・。こんな場所に来るなんて珍しいな。
この丘は、都会にある都会を感じない場所。だからか存在を知らない人が多い。
この丘のこの特等席は、僕と紺野さんくらいしか知らない、といっても過言ではないと思う。
「やっぱり来ていたんだな、圭。」
その声に顔を向ければ、頭の隅で予想していた通り、紺野さんだった。
「こんにちは、紺野さん。久しぶりだね。」
紺野さんは、3ヶ月前にこの場所で出会った人。
24歳の営業サラリーマンだけど、成績が良いらしくいつも忙しそうで、なかなか会わない。今日も、3週間ぶりじゃないかな。
「ああ、前に会ったのは3週間前だしな。」
「そんな事、覚えてたんだ。」
ちょっと感動する。
忙しくて、てっきり忘れているだろうと思っていたのに。
「当たり前だろ、3週間前の事なんだから。それくらい覚えきれないようじゃ、営業はやっていけないよ。」
苦笑いしながら答える紺野さんに、僕も笑いながら、そうだね。と言った。
紺野さんは、背が高くて格好良い。なんでサラリーマンなんかやっているんだろうと、会うたびに思うくらい。
それに、こんな高校生相手に話をしてくれて、逆に話しを聞いてもくれて、優しい人だ。
「圭、どうかしたのか?」
「・・・なにが?」
それに、鋭いかな。
営業という仕事をしているからか、人の心や顔色の違いを読むのにたけていると思う。
今の僕には、正直ありがたくない。なんて思いながら、ごまかす言葉を探す。
「僕どこか違ってる?そんな事ないと思うけど。」
「前に会った時よりは、マシな顔してるけど・・・。」
そう言ったきり、紺野さんは何か考え込むように口を閉ざし、黙って僕の隣に腰を下ろした。
いつもの、紺野さんの席。
「ちょうど良かったね。もうすぐ日の入りだよ。」
紺野さんが何を考えているのかは分からないけど、僕としてはラッキーだ。
今日みたいな日は誰にも会いたくないけど、紺野さんなら平気。むしろ、2人で夕日を見れて良かったな。
なんだろう・・・。
紺野さんといると、安心する・・・。
最近、僕はあまり人と会わなくなった。
もちろん、毎日のように学校とバイトがあるから、人間には会っている。でも、何もない日はこうしてこの丘に独りで来る。
簡単にいえば、人との接触を避けるようになったんだ。その中には慶吾も入っていて・・・。
でも、不思議と今隣にいる紺野さんは平気。
大人で、賢くて、優しいから、かな・・・。
「・・・・キレイ。」
日の入りの様子はあまりにも壮大で、冬のせいで澄んでいる空を余計に引き立たせていたから。
知らず知らずのうちに、僕の口からはそんな言葉が漏れていた。
抱えた膝に頬をつけて、夕日の余韻を求めてずっと空を見ていた。
その僕のすぐ隣には、相変わらず黙ったまま、僕を優しく包んでくれているように紺野さんがいる。
腕から伝わる紺野さんの体温が温かくて、冬にも拘わらず僕の心は温まっていった。
おちつくな・・・。
2週間前にも、来てくれてたら良かったのに。
そうしたら、僕はもっと落ち着けたと思う。
でも仕方ないよね、紺野さんはすごく忙しい人だし、いくら3ヶ月前に出会ったからといっても、毎日会っていたわけじゃないから、そんなに親しい人ともいえない。
なんか、不思議な関係だな。
「圭、今も毎日来ているのか?」
「前はそうだったけど、今はバイトがない日しか来れなくなったよ。」
「バイトやってるのか。」
「そう。最近始めたんだ。時間が余っているから、僕には・・・。」
その僕の言葉に、紺野さんはまた何か考えるように黙ってしまった。
こんな言葉を言えば、鋭い紺野さんに、何かあったんだと気付かせるだけなのに・・・。
そして、僕はそれを望んでいるわけじゃない。
忙しい合間をぬってここに来ているのに、僕のせいで無駄な疲労をかけたくない。
・・・仕方ない。帰ろう。
そう思った瞬間、僕はすぐに立ち上がっていた。でないと、いつまでもぐずぐず居座ってしまいそうだから。
「もう、帰るよ。じゃあね、紺野さん。」
これ以上、気にさせないように笑顔でいう。
最近、作り笑いが上手くなったと感じるのは、こういう時。
もう少し一緒に居たかったけどなぁ・・・。
少し残念に思っている僕がいる事が、なんだか不思議な感じ。
なぜかは分からないけど、僕にとって紺野さんは大きな存在なのかもしれない。
「もう帰るのか。もう少し居ればいいのに。」
そう言ってもらえると、嬉しい。
僕の場所は、ちゃんとココにあるって言ってくれているみたいで・・・。
学校には、僕の居場所はもうないから。
「ありがとう。」
自然と言えた。
「でも、やっぱりもう帰るね。」
紺野さんに背を向けて歩き出す。
慶吾やマスター、家族、友人・・・。色々なひとに言えなかった“アリガトウ”は、紺野さんにだけはようやく言えた。
歩きながら思う。
ありがとう、紺野さん。
あなたはやっぱり、僕にとって大きな存在です。
と。
きっと、今の僕は満足そうな笑みを浮かべているのだろう。
これが、何かの始まりになればいいなぁと、思いながら・・・。
蛍羽ちゃんからSky第二段です(本人によると三部作だそうです。後一作もらえる。楽しみ♪(それか)
前回と同じく切ないのですけど。何か爽やかですよね。確実な幸せがある切なさ。
紺野さん、がんばって圭君を幸せにしてくださいよっ!!!幸せに歩みはじめてるよ、圭くんっ!がんばれっ!!!
蛍羽さまっ、素敵小説第二段、ありがとーございますっ!!!(敬礼)
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